個々馬との思い出:
ディープインパクト 〜7つ目の衝撃を前に〜
11年ぶりに3冠馬が誕生しようとしている。セントライト、シンザン、ミスターシービー、シンボリルドルフ、ナリタブライアンに続く、日本競馬史上6頭目の3冠馬となる。いや、『無敗の』という条件を付ければ、1984年のシンボリルドルフ以来史上2頭目の快挙である。クラシック3冠達成が戦前のセントライトから始まっているのだから、(達成すれば)20〜40年に1頭しか現れないくらいの偉大な名馬と考えていいだろう。まだレース直前まで故障等のアクシデントが起こるかもしれないけれども、不思議とこの馬は無事にいけるような気がしている。歴史的瞬間を見に行く予定を立てている方は多いと思う。関東に住む私も、折角ここまで競馬をしているのだから一度は観てみたいと思い、既に関西の友達と計画を立てている。最近は2歳戦の馬券検討ばかりしているが、このようなロマンも大事にしたいと思う。そのため、心の熱い間にこの馬と私の思い出を振り返っておくのもまた一興だと考えてこの文章を書くことにした。ご覧になっている方も、ご自身の思い出などを振り返って3冠馬の誕生をより深いインパクトにして貰えれば幸いである。
私のディープインパクトとの出会いは彼のデビューより約4ヶ月前、04-05年のPOG馬を選ぶ時に遡る。私は03-04のPOGで彼の全兄であるブラックタイドを持っていたから、引き続きウインドインハーヘアの仔をPOG馬に選んだだけの話である。POG用の本には兄よりおとなしいとか華奢とか書かれていたと思うが、あまり参考にはしなかった。この年のPOG馬の選定基準は脚の先が白い馬だったことから、私が見たのは、この馬の左後脚が白いというところだけだった。今その写真を見ても、何かオーラがあるとか、そういったものは感じられない。前年ブラックタイドを選んだ縁と、白い脚を選定基準にしたこと、その時の自分の直感が引き合わせた奇跡(とまで言うのは大げさかな?)ではないかと思う。POGに選んだことから、彼の情報は多少なりとも気になったし、デビュー近くの調教で猛時計を連発していたあたりで注目するようになっていた。ただ、その時はただのPOG馬という感情でしかない。
○新馬戦 04/12/19 WINS立川
私はディープインパクトの走ったレースを中継を含めてだが全てリアルタイムで見ている。そして、関東圏で走ったレースは全て現地観戦をしている。というのはちょっとした自慢になるだろうか? 彼の新馬戦は2004年12月19日。私は若駒戦予想をしているが新馬戦は守備範囲外なので、余程のことがない限り新馬戦は見ない。この日は、ディープインパクトがメインではなく、他の応援馬トラストジュゲムが中山6Rに出走することになっており、ちょっと早めにウインズに着いたら偶然ディープインパクトの新馬戦が見られた、という経緯である。単勝は1.1倍。今にして思えば100円記念馬券を買っておけばよかったと思うが、もちろんその当時はこんな名馬になるとは思っていなかったのでそんな面倒なことはしなかった。レースぶりは先行ポジションにつけて超スローから4角で先頭に並んで、そのまま1頭違う脚で楽勝するという形。ディープの戦績で一番積極的な競馬をしたレースではないかと思う。レース後、早くもディープインパクトが3冠級に強いとか、所詮モノポ級に弱いだとか論議が巻き起こったが、私の去年の天星指数は「2000m68★S」という、マイル以上の新馬戦では最高ポイントとなる値を示していた(今年も破られていない。この辺りはメルマガを読んでくださっていた方々にはお伝えしている)。何せ、2着のコンゴウリキシオーの指数でさえ、高評価の阪神第1週のアドマイヤジャパンを上回ったのだから。強いと思ったが、マスコミや関係者はアグネスタキオンの時のような3冠取れるとか、そういう騒ぎにはなっていなかった。もちろん、アグネスタキオンがそう言われる資格を得たのはクロフネとジャングルポケットを子供扱いにしたラジオたんぱ杯を勝ってからだから当然のことだが、特に武豊騎手は冷静に、このまま成長してくれれば…というスタンスでそれは皐月賞を勝つまで一貫していた印象がある。成長しなければ3冠はもちろんクラシックも取れないのが現実なのだが、騒ぎを大きくしないための配慮もあったように感じた。
○若駒S 05/01/22 WINS後楽園
この頃までに出てきた有力馬は、ラジオたんぱ杯で上位入線したヴァーミリアン、ローゼンクロイツ、アドマイヤジャパン、シックスセンスら京都2歳Sでも上位に入った馬たちと、朝日杯組のマイネルレコルト、ストーミーカフェ、ペールギュント、そして長期休養しているダンツキッチョウ。彼らが今年のクラシックを賑わすだろうと思われた。しかし、本当の本命馬ディープインパクトはまだ条件馬。クラシック第一弾で彼らに間に合うには、ここを勝って皐月賞トライアルで権利を取るしかない。負けられない1戦だが、関係者の中でも敵わないと思われていたのだろう、相手は全然揃わなかった。2番人気以下はインプレッション、アドマイヤコング、テイエムヒットベの順。まず指数68★Sを負かせる馬はおらず、インプレッションとアドマイヤコングは人気先行しているくらいだった。馬券は指数1800m63がこの中で上位指数だった人気薄ケイアイヘネシーを組み合わせに入れ3連単万馬券的中! の嬉しいこともあった。このレースはテイエムヒットベとケイアイヘネシーが大逃げをして、タフさも要求される勝負になったがここを更に楽に突破できたことは非常に内容があった。ディープインパクトのラップタイムを目算したところ<13.3-12.2-13.0-12.5-12.3-12.2-11.7-11.7-10.9-11.0>だった。上積みも見出され、指数は「2000m73☆」になった。このレースVTRは痺れる。
○弥生賞 05/03/06 中山競馬場
さすがに前走の内容からマスコミに大器と騒がれるようになる。私も友達Nに「凄い強い馬がいる」と言って一緒に中山競馬場に参戦。弥生賞は皐月賞トライアルの中でも格が高いレース。この年も2歳王者マイネルレコルトとラジオたんぱ杯3着→京成杯1着から挑むアドマイヤジャパンが集まった。しかしメンバーがいまいち揃わなかったのはディープインパクトの存在のため。そういえば、ローゼンクロイツが直接対決を遅らすために、それを公言して毎日杯に切り替えたニュースもあった。軟弱だが、それくらいの力差を陣営たちは感じていたということだろう。ただし、岡田総帥は逃げないで「胸を貸す」って言っていたような気がする。確かに朝日杯のマイネルレコルトはそれくらいの力を感じたものだが。延長が駄目なのか、成長がパッタリ止まったのか…。さて、レースは結局ディープインパクトのクビ差勝ちとなるわけで、友達Nなんかももっと凄いレースが見られると思ってたようで、史上に残る名馬というのは感じてもらえなかった。噂を聞きつけてやってきた多くの方々もそう思ったと思う。でも、当時の中山の芝コース(4月2日週からコースが替わり外有利に推移)は内先行有利甚だしい条件で、よくぞここで取りこぼさなかったと思う。武豊騎手がレース談話した「この馬は勝つところが偉いですね」(確かこんな言葉)からすると、武豊騎手はこの当時は無敗にはこだわっていなかったと思われる。あくまでもダービー目標の乗り方は変えないというスタンスは彼らしいように思う。この勝ちっぷりについては昔ブログに書いているものを抜粋しておこう。
13.8-12.0-12.6-12.8-12.4-12.5-12.0-11.4-10.9-11.8
鬼なのはラスト4〜3ハロン目。 ↑↑↑
ここでディープは大外を回しながら上がっていくわけです。
コーナーでのロスは約0.8秒と見ていますので、
最内を通るよりもかなり時計が遅く出ていることになります。
実際の使った脚は、11.7-10.9くらいのモノではないかと。
最後は脚があがってしまいましたが、さすがに当たり前でしょう。
直線まで溜めていたアドマイヤジャパンがラスト4Fを
12.4-11.6-11.2-11.8で走っても届かなかったというのが力の差。
指数は73か74かといった評価。
馬券も的中し、POGの順位も上昇し、満足の凱旋ができた。
○皐月賞 05/04/17 中山競馬場
先日の勝利に調子付いて友達Nと再び中山に。というか、昼すぎまでは自分一人。大好きな4角で、記念に写真も撮れる場所に陣取って寝ていた。皐月賞は私の原点とも言えるGIであり、1998年のセイウンスカイで大勝して以来、就職活動の試験日と重なった2000年の皐月賞以外全て現地で観てきている。毎年、自分の競馬道をここで振り返る、というようなイベントとなってきつつある。皐月賞は紛れの多いレースというのは知られている通りであり、自分もここでは勝利と敗北の明暗が激しく分かれていて、2002年はあのタニノギムレット3着のレースで撃沈したものの、2003年はエイシンチャンプの3着争いに燃えて快勝、2004年はPOG馬ダイワメジャーの勝利で、3連複とワイドをしっかりゲット。2005年はその余裕を引きずっていたのかもしれない。馬場を読み違えて、しかも追い続けてきたシックスセンスをあっさり切ってしまった自分の予想に憤慨と後悔。更に考えればデータアート的にはアドマイヤジャパンが称号馬であったことから、ディープ1着固定→ジャパンの2,3着固定から能力のある差し馬に流せば簡単に取れた馬券なのだ。皐月賞を優勝するディープインパクトは光を浴びて、これまでで一番絵になるゴールインだった。シックスセンスを買えていれば、多分家にパネルがあっただろうなぁ。将来「この時失敗した経験で」と言える勝利につなげることを心に誓ったレースになった。ディープはゲート出たところで大きく躓いた以外は全く不安のない楽勝だった。
○日本ダービー 05/05/29 東京競馬場
私は若駒Sからディープインパクトの出走するレース全てディープ1着付けの3連単をメインで購入している。皐月賞までは、人気ながらもそれなりに割れたものだが、実力の出やすいダービーではさすがに皆がそう買うこともあり、全然オッズがつかず困った。金曜前売り時点のディープインパクトの単勝1.0倍、2番人気が90倍とか、歴史的なオッズとなっていたのも印象深い。自分としても故障さえなければ負ける要素がひとつもなかった。この日は去年と違い、内で伸びる馬が目立っていたものだが、その条件でディープはこれまでと全く同じ、大外ぶん回しで5馬身突き放して勝利した。事前想定では4馬身差以上と見ていたのだが、内バイアスに乗って力強く伸びたインティライミがいたのに5馬身つけたのは強い。武豊騎手もしっかり追っていたから、これまでの指数以上に走っていたのではないか。2400m72。この指数を超える馬が今後現れるのか、今後の楽しみも増えた。さて、この日は競友会メンバー&その頃競馬を伝道していたG氏で見に行ったのだが、初めて内馬場に行ったため、肝心のゴール前がよく見えなかった。。平場とか、土曜競馬でまったりするのはいいが、大きなレースを見るには物足りないのだろう。初めて競馬場に来たG氏もあまり楽しめていなかったので、ちょっと悪かったと思った。当たり馬券のうち2枚を、以前サイトでも紹介した関西の友人にご祝儀でお送りした。これで「彼の結婚式はディープインパクト3冠の年のオークス当日(シーザリオ)だった」って、my競馬カレンダーとともにしっかり焼き付けられたわけなんだな(笑)また、ダービーのテーマソングはYUKIの「長い夢」だった(オークス週は一青窈の「影踏み」)。ロック道はこの直後から…。2004-2005若駒戦完結。
○神戸新聞杯 05/09/25 中山競馬場
とりあえず、タニノギムレットの離脱時期を突破し、秋初戦まで駒を進めることができた。秋初戦は過去に全盛期のナリタブライアンがスターマンに敗れたこともあるし、夏をうまく越せず終わってしまったタニノムーティエという馬も想起されたが、世代トップクラスの猛者が集う当レースを楽に突破した。脇役になってしまった上位馬では、骨折休養明けの素質馬ストーミーカフェは馬場が外差しだったことなども影響して敗退したが、使ってくればまだ復活はあると思っている。ストーミーと一緒に先行した先行馬は潰れるの格言通り潰れたアドマイヤジャパンは、ストーミーより先着したからまだ終わったとまでは言い切れない。ローゼンクロイツは得意の阪神で好走パターンのインで溜めてちょい差す好騎乗。シックスセンスは勝負に行く正攻法の騎乗で2着した。しかし、彼らとはかなりの力差を感じることのできるディープインパクトの勝ちっぷり。距離適性とかの問題ではなく、アクシデント以外に負けようがない。去年の天皇賞秋くらいのバイアスをもってしてゼンノロブロイクラスが勝てるくらいのレベルだと思う。あとは、キングカメハメハの離脱時期を突破してくれれば…。菊花賞の舞台となる京都競馬場は開幕週からすでにフラット〜外差しとなっている。3冠は目前。そして、その第一目標を達成した後は、古馬とのレース(JCか有馬記念)でゼンノロブロイやタップダンスシチーに勝って、海外へ行って世界最強馬となって戻ってきてほしい。エルコンドルパサーが掴み損ねた凱旋門賞のタイトルを、この馬なら取れるかもしれない(私が描いたフォースシェルトのように最後は有馬記念で終えてほしい)。夢は膨らむばかりだ。エルコンドルパサーで思い出したが、サイレンススズカの毎日王冠を、この馬は勝つことができただろうか? そういった想像をするにも個性的な魅力を持った名馬だと思う。
○ディープインパクトの強さについて
彼の強さはその器だけでなく、「長い脚をいつでも使える」特徴にある。以前このことをメルマガかどこかで「ニシノドコマデモの末脚を好きなときに使える」と評したことがある。そして今のところ、その脚は不発したことがない。スタートが悪いのは欠点ともなるが、このクラスだと愛嬌のようなもので、ただ大外を回ってくればいい(そのほうがアクシデントに巻き込まれる確率も低い)ということで済んでしまう。愛嬌と言ったことについて。過去に無敗で3冠を達成したシンボリルドルフは、先行抜け出しというソツのない競馬で付け入る隙のないサイボーグ的な強さを発揮していたが、あまりに強かったため、その前年の3冠馬であり、後方からの競馬で取りこぼしもあったミスターシービーに対し人気(馬券ではなくファン心理)では勝てなかったという。後方から競馬をする馬は、「そこから先頭まで抜くには、先行馬よりも○秒速い脚を使わなければならない」という状況に常におかれており、本当に来てくれるのか、見ている者をハラハラドキドキさせるもの。競馬ファン心理的に、普通じゃない走りを毎回見せてくれるから、あまり嫌う要素が少ないタイプなのだと思う。
無敗で3冠を達成した後も無敗で行ってほしいけれど、記録よりもドラマが上回る競馬ファンとしては、この馬をピンチに追いやるほどのライバルが現れてくれたらと思う。逆説的だが、ライバルが出現してディープの脚でも届かないことがあったり不発した時、この馬の人気はもっと上がっていくように思う。あ、でも無敗の3冠までは記録は是非とも達成してほしい。無理はしてほしくないが、結果的にそれがレコードであったり、ナリタブライアンの7馬身を超える着差であったら素晴らしいだろう。
…
○菊花賞 05/10/24 京都競馬場
競馬ファンの夢を背負うディープインパクトと武豊騎手。2周目の下り、4角の手ごたえ、直線の伸び、鞍上のアクション、歓声と拍手…。このリアルな夢を正夢にしてほしいと願っている。
(2005年10月10日筆)
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