最強世代の考察


 最強馬と並んでよく使われる言葉に「最強世代」がある。
 人によって推す世代は異なるだろうが、大体以下の世代を挙げる人が多いように思う。

 まずは01クラシック世代。大物が激突した2歳のたんぱ杯から期待されていたアグネスタキオンが皐月賞を。2着ジャングルポケットはダービーとジャパンカップを。3着クロフネはNHKマイルCとジャパンカップダートを。遅れてきた大物マンハッタンカフェが菊花賞と有馬記念を獲り世代の古馬GIタイトルは3歳時で3つ。古馬になってはマンハッタンカフェが天皇賞春を、ダンツフレームが宝塚記念、ツルマルボーイが安田記念を取った。しかし、素質馬が次々と故障に泣き、(メジロベイリー、タガノテイオー、アグネスゴールド、アグネスタキオン、コイントス、ボーンキング、クロフネ、ダンツフレーム、エアエミネム・・・)故障最強世代といったところか。

 それから近年代表の世代なら、98クラシック世代。
 エルコンドルパサーはNHKマイルCとジャパンカップ、海外でサンクルー大賞典を勝って凱旋門賞を2着した。スペシャルウィークはダービーと天皇賞春秋連覇、ジャパンカップを制した。グラスワンダーは朝日杯3歳S、その後骨折から復活して有馬記念2回、宝塚記念を勝った。セイウンスカイはスペシャルを封じての2冠。古馬になって振るわなかったがGIIはきっちり勝った。エアジハードはグラスワンダーを破り安田記念を勝つと、天秋先行して3着、マイルCSを快勝した。アグネスワールドは国内GIを勝てなかったが海外GIを2勝した。ウイングアローはフェブラリーS、ジャパンカップダートを制した初代ダート王。他にもキングヘイロー、マイネルラヴなんかがいる。充実している。

 ちょっと遡れば90クラシック世代。
 メジロマックイーンは菊花賞と天皇賞春2回と宝塚記念を勝ち、故障する93年秋までどっしり構えた大横綱。メジロパーマーは人気薄で宝塚記念と有馬記念を逃げ切った魅惑の星。ダイタクヘリオスはマイルCS2勝だが、1番人気で勝てなかったクセのある逃げマイラー。ダイイチルビーは安田記念とスプリンターズSを制覇した短距離界の名牝。メジロライアンはクラシック戦線で主役を張りながらイマイチ君で、宝塚記念でやっとこさGI馬になる。他にも、プレクラスニー、レッツゴーターキンら一発屋やホワイトストーンなんかがいた。

 熱かった88クラシック世代もいい。
 オグリキャップは競馬をメジャーにした英雄。有馬記念2回、安田記念、マイルCS勝利。古馬GT4勝は立派。スーパークリークは若き武豊が手放さなかった名ステイヤー。菊花賞と天皇賞秋春。サッカーボーイは3歳(新表記)でマイルCSを勝った馬。2歳GT馬で函館2000m1.57.8のレコードは今でも金字塔だ。ヤエノムテキはオグリキャップに負けても負けても食らいついた馬。皐月賞と天皇賞秋を勝つ。バンブーメモリーは安田記念とスプリンターズSを勝った。89マイルCSではオグリの引き立て役になってしまったが強かった。あと、パッシングショットやダイユウサクの一発があった。

 オールドファンなら76クラシック世代か。
 トウショウボーイは皐月賞、有馬記念、宝塚記念を勝って、テンポイントは2歳GT、天皇賞春、有馬記念を勝って、グリーングラスは菊花賞、天皇賞春、有馬記念を勝った。ほぼこの3頭で当時の競馬界は回っていたように映る。しかし他には実力馬がおらず、天皇賞秋を勝ったホクトボーイあたりが4番手だろう。

 果たしてどの世代が最強なのだろう?
人の好き勝手でいい気もするが、ここでまた「最強世代を最強にしている要素」に着目して考えていこう。

A.強い馬(実績馬)が多いこと
 当たり前だが、上記世代のように、獲得GT実績が多いほうが説得力がある。
 その上で、ただまばらにGT勝ち馬がいても烏合の衆なので、派手な勝ちっぷりなど、数字だけでない強さをアピールする要素も必要だ。

B.時代を担った横綱がいること
 GT3勝くらいの格のある馬が2、3頭いるとその馬を定規にして各馬の能力を測りやすい。
 また、華のある馬がいることで他の馬が挑戦し目標となり競馬に活気が出る。
 95、97年のような横綱不在時代は実績を残しても評価しにくい。

C.3歳時に古馬を一蹴したこと
 世代が強いなら、他の世代とぶつかったときに勝てるはずだ。
 特に3歳の秋からの古馬戦では、こちらがやや成長途上であるから不利に思われるぶん、勝てば評価が上がる。上記の世代のほとんどが3歳の有馬で古馬に勝っている。


では、下図を参考に各世代を見ていこう(87クラシック世代以降)

●古馬GT歴代勝馬表

フェブ
高松
天春
安田
宝塚
スプリ
天秋
エリ女
マイル
JCD
JC
有馬
87 ミホシンザン フレッシュボイス スズパレード ニッポーテイオー ニッポーテイオー ルグロリュー メジロデュレン
88 タマモクロス ニッポーテイオー タマモクロス タマモクロス サッカーボーイ ペイザバトラー オグリキャップ
89 イナリワン バンブーメモリー イナリワン スーパークリーク オグリキャップ ホーリックス イナリワン
90 スーパークリーク オグリキャップ オサイチジョージ バンブーメモリー ヤエノムテキ パッシングショッ ベタールースンア オグリキャップ
91 マジロマックイー ダイイチルビー メジロライアン ダイイチルビー プレクラスニー ダイタクヘリオス ゴールデンフェザ ダイユウサク
92 マジロマックイー ヤマニンゼファー メジロパーマー ニシノフラワー レッツゴーターキ ダイタクヘリオス トウカイテイオー メジロパーマー
93 ライスシャワー ヤマニンゼファー マジロマックイー サクラバクシンオ ヤマニンゼファー シンコウラブリイ レガシーワールド トウカイテイオー
94 ビワハヤヒデ ノースフライト ビワハヤヒデ サクラバクシンオ ネーハイシーザー ノースフライト マーベラスクラウ ナリタブライアン
95 ライスシャワー ハートレイク ダンツシアトル ヒシアケボノ サクラチトセオー トロットサンダー ランド マヤノトップガン
96 フラワーパーク サクラローレル トロットサンダー マヤノトップガン フラワーパーク バブルガムフェロ ダンスパートナー ジェニュイン シングスピール サクラローレル
97 シンコウウインデ シンコウキング マヤノトップガン タイキブリザード マーベラスサンデ タイキシャトル エアグルーヴ エリモシック タイキシャトル ピルサドスキー シルクジャスティ
98 グルメフロンティ シンコウフォレス メジロブライト タイキシャトル サイレンススズカ マイネルラヴ オフサイドトラッ メジロドーベル タイキシャトル エルコンドルパサ グラスワンダー
99 メイセイオペラ マサラッキ スペシャルウィー エアジハード グラスワンダー ブラックホーク スペシャルウィー メジロドーベル エアジハード スペシャルウィー グラスワンダー
00 ウイングアロー キングヘイロー テイエムオペラオ フェアリーキング テイエムオペラオ ダイタクヤマト テイエムオペラオ ファレノプシス アグネスデジタル ウイングアロー テイエムオペラオ テイエムオペラオ
01 ノボトゥルー トロットスター テイエムオペラオ ブラックホーク メイショウドトウ トロットスター アグネスデジタル トゥザヴィクトリ ゼンノエルシド クロフネ ジャングルポケッ マンハッタンカフ
02 アグネスデジタル ショウナンカンプ マンハッタンカフ アドマイヤコジー ダンツフレーム ビリーヴ シンボリクリスエ ファインモーショ トウカイポイント イーグルカフェ ファルブラヴ シンボリクリスエ
03 ゴールドアリュー ビリーヴ ヒシミラクル アグネスデジタル ヒシミラクル デュランダル シンボリクリスエ アドマイヤグルー デュランダル フリートストリー タップダンスシチ シンボリクリスエ
04 アドマイヤドン サニングデール イングランディー ツルマルボーイ タップダンスシチ カルストンライト ゼンノロブロイ アドマイヤグルー デュランダル タイムパラドック ゼンノロブロイ ゼンノロブロイ
05 メイショウボーラ アドマイヤマック スズカマンボ アサクサデンエン スイープトウショ サイレントウィッ ヘヴンリーロマン スイープトウショ ハットトリック カネヒキリ アルカセット ハーツクライ
06 カネヒキリ オレハマッテルゼ ディープインパク ブリッシュラック ディープインパク テイクオーバータ ダイワメジャー フサイチパンドラ ダイワメジャー アロンダイト ディープインパク ディープインパク
07 サンライズバッカ スズカフェニック メイショウサムソ ダイワメジャー アドマイヤムーン アストンマーチャ メイショウサムソ ダイワスカーレッ ダイワメジャー ヴァーミリアン アドマイヤムーン マツリダゴッホ
08 ヴァーミリアン ファイングレイン アドマイヤジュピ ウオッカ エイシンデピュテ スリープレスナイ ウオッカ リトルアマポーラ ブルーメンブラッ カネヒキリ スクリーンヒーロ ダイワスカーレッ
09 サクセスブロッケ ローレルゲレイロ マイネルキッツ ウオッカ ドリームジャーニ ローレルゲレイロ カンパニー クイーンスプマン カンパニー エスポワールシチ ウオッカ ドリームジャーニ
10 エスポワールシチ キンシャサノキセ ジャガーメイル  ショウワモダン  ナカヤマフェスタ ウルトラファンタ ブエナビスタ スノーフェアリー        

 注.灰色になっている枠は3歳馬の勝利
   2006年にヴィクトリアマイルが新設されていますが、横幅の都合上、当面省略いたします。
   06ダンスインザムード
   07コイウタ
   08エイジアンウインズ
   09ウオッカ
   10ブエナビスタ

 表から読み取れることメモ
フェブラリーS、高松宮記念、エリザベス女王杯は円熟5歳馬優勢
天皇賞春、宝塚記念、JCは充実の4歳馬優勢(天春は格あれば5歳馬も)
安田記念は5、6歳の古豪が活躍できる(基本的に短距離は高齢馬OK)
世代交代は確実にやってくる


獲得古馬GT数(地方・交流を除く)
1位 98年世代 14つ +海外3 唯一全国内GTタイトルを取った世代
2位 02年世代 16つ      シンボリとミラクル、デュランダルの活躍が多い
2位 97年世代 13つ +海外3 タイキシャトル、メジロドーベルが頑張ったが花形Rではない
4位 99年世代 13つ      テイエムオペラオーが7つ稼いでいる
5位 88年世代 12つ      今よりGIが4つ少ないのにこの数字はすごい
5位 90年世代 12つ      同上評価

   03年世代  7つ
   04年世代 13つ +海外3 ハーツクライ、コスモバルク、デルタブルース
   05年世代 12つ +海外1 シーザリオ
   06年世代 12つ +海外1 アドマイヤムーン
   07年世代 18つ
   08年世代  4つ
   09年世代  3つ

GT勝利馬の数(地方・交流を除く)
1位 02年世代 10頭
1位 97年世代 10頭      
3位 98年世代  9頭
3位 01年世代  9頭 

横綱の数(地方・牝馬限定戦除く)
1位 98年世代 3頭 スペシャルウィーク、グラスワンダー、エルコンドルパサー
1位 02年世代 3頭 シンボリクリスエス、ヒシミラクル、デュランダル
3位 88年世代 2頭 オグリキャップ、スーパークリーク
3位 91年世代 2頭 トウカイテイオー、ヤマニンゼファー
3位 87年世代 2頭 タマモクロス、イナリワン
3位 92年世代 2頭 ミホノブルボン、ライスシャワー
3位 07年世代 2頭 ダイワスカーレット、ウオッカ

3歳馬が古馬GTを制した数(世代交代):通算勝利数
1位 01年世代 3勝 ジャパンC、ジャパンCD、有馬記念     11
2位 98年世代 3勝 ジャパンC、有馬記念、スプリンターズS 14+3
3位 02年世代 3勝 有馬記念、天皇賞秋、エリザベス女王杯    16
4位 97年世代 3勝 有馬記念、マイルCS、スプリンターズS 13+3
5位 88年世代 2勝 有馬記念、マイルCS            12
6位 07年世代 2勝 エリザベス女王杯、スプリンターズS     16
7位 06年世代 2勝 ジャパンCD、エリザベス女王杯     10+1
8位 95年世代 2勝 有馬記念、スプリンターズS         10

 実績ではジャパンC、ジャパンCD、有馬記念と主要古馬GTを総ざらいした01年世代がNo1。3歳時に古馬GTを2勝以上した世代はその後も活躍し、通算勝利数との関連は深い(特に有馬記念)。02世代も予想通り強かった。一方、05世代はディープインパクトが勝てなかったのは世代の弱さを象徴したか。

 で、ここまでの比較をまとめると最強世代は、現在進行形の世代をひとまず置いておくと、様々な角度から見ても優秀な98年世代か、数字的には劣るも現在とのGT数を考えれば負けてない88年世代に絞られた。最後は最強馬論の応用で結論を出したい。各世代のトップと思われる9頭を選出しそのポイント合計で競います。(02年世代も候補に挙がってきましたのでいずれ評価してみようと思います)

 評価のライン(どれもややセンスを含む場合はある)。
(1)は、勝率8割以上を5点、7割〜を4点、6割〜を3点、5割〜を2点、
   5割未満を1点。
(2)は、クラシックで2冠以上で古馬でもGT勝ちまたはクラシック1冠で古馬GT2勝以上を5点、
   あとはそれに準じてセンス。
(3)は、GT勝利数(地方交流、牝馬限定戦を除く)。
(4)は、2400mのGT勝利2回を5点、1回あれば4点、ないけど2500以上で勝ってれば3点、
   2000勝ちで2点。
(5)と(6)はセンスで。

88年世代代表
(1)
(2)
(3)
(4)
(5)
(6)
合計
オグリキャップ
25
スーパークリーク
21
サッカーボーイ
17
ヤエノムテキ
16
サクラチヨノオー
15
ダイユウサク
13
バンブーメモリー
12
パッシングショット
メジロアルダン
合計
14
24
25
19
28
35
145
98年世代代表
(1)
(2)
(3)
(4)
(5)
(6)
合計
エルコンドルパサー
24
スペシャルウィーク
23
グラスワンダー
23
セイウンスカイ
18
エアジハード
14
キングヘイロー
12
ウイングアロー
12
マイネルラヴ
11
アグネスワールド
10
合計
17
25
21
22
30
34
147

 注、緑色の箇所は88年世代のGI 勝利数を修正(当時のGI 数は8、現在12のため3/2で。端数は切捨て)。

 147対145。
 僅差でしたが、よって僕の選ぶ最強世代は、1998年クラシック世代です。JCを2勝した世代としても素晴らしい実績ですね(1988世代はJCを制してない)。

 最後に87年よりも前の世代の信奉者の方、そこまで手が回らずどうもすみません。

(2002年1月6日筆、最終更新日2010年11月14日)