最強馬の考察


 「最強馬」、「史上最強馬」、「現役最強馬」。
 競馬ファンの方はこの言葉を使って競走馬を語ったことがあるのではないだろうか。
 最強馬はどの馬か? ナリタブライアンかシンボリルドルフかエルコンドルパサーかサイレンススズカか。シンザン、クリフジ、トキノミノルか。スペシャルウィーク、グラスワンダー、トウカイテイオー、オグリキャップなんて声もあがってきそうだ。はたまたテイエムオペラオーも実績で考えると当然候補になる。
 いろんな人が違う馬を上げてくるのは予想されるが、どれが一番強いのだろう。大体現役の馬の強さ関係さえままならないのに、答えを出せるわけがない。上にあげた馬を(絶頂期に)同じ舞台に立たせ、ヨーイドンで競走させることができることがまずできないのだから。(例えそれが叶っても、コースや距離や馬場状態などをどう設定するかがまた問題になってくる(笑))。
 様々な人が最強馬を指名する理由、それはレコードであったり、GT勝利の数であったり、大差勝ちであったり、無敗伝説であったりするが、芝の状態が違うからタイムは昔と比べられないし、結局着順も相手関係の物差しだから、どの時代が凄かったかはわからない。相手が弱かった、調子が悪かった等のラッキーが積み重なっただけかもしれない。そんなことを言っていくと当たり前だけど、明快な答えは出ないわけだ。

 しかし、そういう理由で「最強馬論はナンセンスな時間の無駄、終了〜!」としては能がないしつまらない。これを踏まえながらも、独自の切り口で最強馬に迫ってみたい。

 まず、あの馬が最強馬だとか考えるよりも、最強馬とは何か、について考えてみよう。
 僕の想像上の最強馬は、大体こんな馬だ↓


 フォースシェルト  牡  2026年生まれ

2028年
 10月1週の新馬芝1600mを期待された以上の楽勝。
 GU京王杯を勝って、朝日杯で3連勝。いずれも楽勝、朝日杯で2連続のレコード。グラスワンダーやマルゼンスキーのような走りっぷりを見せる。

2029年
 弥生賞から始動、貫録勝ち。超ハイペースの皐月賞を先行抜け出しで勝ちロゴタイプのレースレコードを塗り替え、アグネスタキオン以上のパフォーマンスを見せる。続くダービーは直線半ばまで馬なりで先頭にならびかけ、仕掛けるだけの5馬身差勝ち、海外遠征プランが現実のものとなる。
 キングジョージで前年の凱旋門賞馬とブリダーズカップターフ優勝馬(ともにGT3勝馬)相手に競り勝つ!そのまま凱旋門かと思いきや、帰国。調教師曰く「凱旋門は来年でも取れる。日本の最強古馬勢と走らせたい」。
 あまり休養できなかった神戸新聞杯をダービー2、3着馬相手にアタマ差の辛勝、体調不安が囁かれる。
 が、菊花賞を逃げ切りの大差勝ち。2分59秒7に場内がどよめく。一昨年のレコードを2秒短縮、当然世界レコード。シービー、ルドルフ以来の2年連続の3冠馬誕生に競馬ファン大喜び。記録は21馬身差だった。
 史上最高のメンバーが揃うJCに早くから参加を表明。古馬の大将格は、去年の3冠馬、GT5勝の4歳馬「貴光子」キボウノホシ(28皐月、28ダービー、28菊花、28有馬、29天春)。天皇賞春以来となる京都大賞典を勝った後、熱発で天皇賞秋を回避しての臨戦である。最強世代と言われる5歳は、希代の豪脚馬「蹂躙将軍」(別名:大外ローラー)チャランドゥ(27ダービー、27有馬、28JC、29天秋)、2度の骨折から見事カムバックした「流星天馬」シエルサンスピカ(26朝日杯、27菊花、28天春、29宝塚)、ピーク時の勢いには一息だがクセのある大逃げが競馬を盛り上げる「鈴鹿三世」ソーラーレイ(27皐月、27天秋、28宝塚、28マイルCS)、3冠では3.2.4着だが3歳時にJCを勝ち世代最強を印象付けた「黒疾風」オールトゥギャザー(27JC、28天秋、29安田)が、順調に仕上がり、2027年有馬記念以来となる四天王揃い組みを果たした。
 さらに、6歳では海外に羽ばたいていた(逃げているとも言われる)ゴッドウインド(27安田、27宝塚、29アーリントンミリオン)が海外の勲章を胸に参戦。このメンバーに恐れをおののいた他のちょいGT馬は続々回避を決定。今年の凱旋門賞でラムタラ以来の欧州3冠馬になった英国馬が4番人気と異常事態のJCとなる。
 1番人気(しかし初めての単勝2倍台)フォースシェルトは好位差しでの横綱競馬で古馬、外国馬を完封。これで無敗の6冠馬となる。勝ちタイム2.21.6はレコード。2着チャランドゥ(1馬身1/2)、3着キボウノホシ(2馬身)、4着オールトゥギャザー(アタマ)、5着シエルサンスピカ(クビ)。
 連続の激闘からか脚部不安で有馬記念を回避する。
 有馬記念はキボウノホシ。陣営は引退を撤回、「勝負終わってない」。
 3着シエルサンスピカも現役を続行。6着チャランドゥはレース中に骨折、引退し種牡馬へ。2着にはダービーと菊でフォースシェルトに大負けを喫していたファイナルロードが入り、同じく朝日杯と皐月で2着に敗れながらマイルCSを勝ったキレアジとともに世代の強さを証明した。

2030年
 阪神大賞典から復帰、キボウノホシ、シエルサンスピカと後続に大差をつける競り合いを演じ、アタマ差勝ちレコード。天皇賞春でも3強が激突。シエルサンスピカを捕らえあとは独走。前走の反動かキボウノホシは3着にあがるのがやっと。4着ファイナルロード。
 キボウノホシとの勝負付けがついたとみた陣営は再び海外へ目を向ける。フランスに移動し、サンクルー大賞典をあっさり勝利。適性云々より能力の違いを見せつける。フォア賞から凱旋門賞も制覇。昨年の言葉を現実のものとする。
 帰国すると、国内の勢力地図は一変している。6歳シエルサンスピカは宝塚記念を勝っておめでとう引退。オールトゥギャザーは安田をキレアジの2着後、宝塚記念へ向けた調整中に故障して引退。キボウノホシは宝塚記念を回避して休養をとり秋に専念することにしたものの、京都大賞典優勝後臨んだ天皇賞秋で新鋭3歳2冠馬プレステージ(30皐月、30ダービー)に敗北する。さらにJCでも着差を広げられて完敗し、あっという間の無敗4冠馬誕生に騒然の競馬界。プレステージは一躍、凱旋門を含む今年GT3勝のフォースシェルトと年度代表馬を争える馬になった。
 プレステージの次走が有馬記念に決まった報道の後、一時はこのまま引退を考えていたフォースシェルト陣営が動き出し、馬の状態を確認し出走を決める。師は、「相手も歴史に残る馬だから、やってみなければわからない。結果はともかく、フォースシェルトの物語を完結させるには避けられない。運命ですね」。
 師走の風が冷たい中山のターフに数々の記録を破り、生ける伝説となったフォースシェルトが帰ってきた。ダービー以上の20万人の競馬ファンが詰め掛け、スタンドはおしくらまんじゅう。みんなキレそうな状態の中GTファンファーレが響く。スタート。
 流れははじめゆったりしていたが、3コーナーから各馬加速しはじめ、4コーナーで早くもキボウノホシが競りかけてくる厳しい展開。「さあ外からキボウノホシが馬体を並べにかかる、お前を待っていたぞフォースシェルト〜!」ややキボウ寄りの実況が熱い。喚声怒声、場内も最高潮だ。
 だがそこからフォースシェルト、逆に引き離す。外に持ち出したプレステージが追い込んでくるが全く届かない。早くも馬券が飛ぶ。4馬身差の圧勝。2着プレステージ、3着サポテンフラウ(30菊花)、4着ファイナルロード、5着キボウノホシ、以下7馬身。
 万雷の拍手とコールで観客に迎えられ、引退の花道を飾る。シンジケートは予定より更に上乗せの40億。
 初めて複勝圏外となったキボウノホシは失意の引退。
 プレステージは翌年の天秋、JCでGT6勝馬になるが有馬記念で予後不良に。結局最後まで走っての敗戦は有馬の一回のみ。同期ファイナルロードは翌年の天春で念願のGT馬になると、ふっ切れたように宝塚、有馬で戴冠して名馬に。同期キレアジは翌年、29マイルCS、30安田に続くスプリンターズを勝利し引退。サポテンフラウは2年後の天春、宝塚、有馬、3年後の天春を勝ち、その後殿堂馬になる。
 そして人々は称えた、フォースシェルトこそ「最強馬」だと・・・・・・


 ・・・・・・
 思いっきり自分の世界に浸ってしまったが、これだけの戦績を残せば、僕はこの馬を自信を持って最強馬と推す。あなたもこんな馬に出会えたら、最強馬と呼んで後世に語り継ぎたいのではないだろうか。
 
 さて、ここからが本番だ。
 次にこのフォースシェルトを最強に形作っている要素を取り出してみると大体こんなものがあげられる。

(1)負けない
 当たり前だが、強い馬はコロコロと負けるはずがないし、コロコロ負ける馬を最強馬と呼ぶことはナンセンスだ。そういえば、某誌の最強馬対談で井崎氏がこの筋から評価している。そうすると彼の言うようにマルゼンスキー、クリフジ、トキノミノルから選ばれることになるが?

(2)クラシックから古馬まで活躍
 それに対する大川氏の批判は、それらの馬は3歳で競馬が終わっていることだった。
 確かにこの批判は正しい。3歳でいくら無敗でも、世代が弱かっただけで古馬になっても同様の活躍ができることは保証できないからだ。(近年では惜しくも3冠になれなかった2冠馬エアシャカールが古馬で期待はずれなのが好例だろう)
 それに、馬は4歳の秋が一番充実すると言われている。 4歳秋頃まで馬は能力的に成長するものだと仮定すると、3歳で競馬を終えた馬はすでにピークだったかまだ伸びしろはあったのかわからない。もし早熟なら、中学では背が高かったが成長が止まって高校で抜かれる奴のように、そのうちに負けが込んでくる可能性を否定できない。(近年ではナリタトップロードなんかがピークが早かった馬だろう)
 だから、古馬まで(最低4歳の秋まで)走って競馬を完結する必要がある。そうすれば、3世代から5世代くらいの連中と戦えて、より評価を固めることができる。

(3)格、大体GT3勝以上
 もちろん、GTのタイトルは必須だ。みなが目指すレースで勝つことこそ強い馬の証明だから。これまでの歴史が示してくれたラインはGT3勝あたりだろう。最強を論ずるなら、GT5つくらいは欲しいが・・・・・・。
 このラインを超えられてない馬は減点をしたい。

(4)距離やレース
 ダービー、ジャパンカップ、凱旋門賞、花形レースは2400mあたりに集中している。
 当然皆これを目標にしてくるから、一番ハイレベルになるのは中長距離GT路線ということになる。よって牡馬クラシック、古馬王道5冠で勝負した馬を評価したい。(近年ではメジロドーベルが牝馬限定GTで5勝したが、こういうのは除外ということ)タイキシャトルもGT5勝は全てマイル以下であり、強く推せない。
 僕は馬に能力があれば陣営は、中長距離路線に舵をとるはずだと思っている。スプリンターからマイルで活躍する馬、それらはその馬に一番合った距離としてその路線を選択せざるを得なかった馬であり、それでも最強を論じたいなら、せめて天秋に出走して王道路線の雄を撃破してほしい。
 まあ、スプリントと中長距離では土俵が違いすぎるのだ(逆に王道路線からスプリントに参加してもブライアンのように負けてしまうだろう)が、多くの関係者が目指す中長距離のほうを基軸とするほうが正当だと思う。タイキシャトルにこだわって申し訳ないが、だってあの当時のマイル路線ってかなり手薄だったように思う。

(5)圧倒的な勝ちっぷり
 たとえハナ差であっても勝てばいい。無駄な力は使わない。僅差でも勝ち続けることこそ強者の証明。シンザンやオペラオーを最強馬にする人たちの論評に絶対出てくる言葉だが、しかし僕はそうは思わない。
 最強ともされる馬なら、無駄な力を温存するまでもなく楽々にド派手な勝ちっぷりを見せるはずである!
 最強馬を思い浮かべたとき、よくわかった。それをほとんどできない馬は、「今は相手がいないけど、ちょっと強い馬が現れたら負ける」そう思われて当然だ。最強馬論、それは頭の中で行なわれるレースで勝つ馬であり、多数の頭の中のレースを支配するには余程のインパクトが必須なのだ。
 サイレンススズカ、GT1勝馬ながら語り継がれるこの馬が残したインパクトはかなりのものだ。
 天秋、僕のデータでは確勝。中距離を爆勝し毎日王冠完勝、まさに天秋を勝つためのローテーションだった。惜しかった。「JCでも持つ」豊は言っていた。僕もそう思いたい。でも、2000から2400はまた距離の壁が一枚あり、不安もある。軸にはしなかったと思う。この不安を打ち破ってGT3勝馬になって欲しかった。
 ナリタブライアン、故障前のレースを生で見ることができなかったのは残念だ。クラシックの大勝ちはビデオで見ても圧倒される。20世紀の100名馬、10年後にやっても1位はこの馬だろう。
 オグリキャップ、競馬を知らなかった中学の僕でも名前は知ってたアイドルホース。競馬を知れば知るほど、4(旧5)歳秋の暴走のすさまじい衝撃を実感できる。オールカマー1着→毎日王冠1着→天皇賞秋2着→マイルCS1着→ジャパンカップ2着→有馬記念5着。(赤は連闘)表面上でも驚きなのに、中身も充実している。毎日王冠ではイナリワンにハナ差勝ち、天秋は勝負どころでの不利からスーパークリークのクビ差2着まで巻き返し、マイルCSは4コーナースムーズに抜け出したバンブーメモリーを残り100mで内から追撃、ゴール板でハナ差勝ち。連闘で臨んだジャパンカップでは1600m1分34秒台のハイペースを先行で追走し、2.22.2のホーリックスと並ぶ大レコードをマークした。有馬ではさすがに負けたが(これが初の複勝圏外)、ライバルイナリワンとスーパークリークで決着した。
 さて、オグリを語るとき、必ず出てくるのがタマモクロスでありイナリワンでありスーパークリークである。そこで次の項目。

(6)相手関係、ライバル
 絶対能力を測れないとなれば、馬の能力は相手関係から組み立てていくしかない。
強い相手に勝てば、自分の評価も上がっていく。特にGT3勝(結果論)レベルの馬が乱立した時代は評価が相乗効果で高い。オグリ、イナリ、クリークの時代、グラス、スペシャル、エルコンドルの時代がそれに当たるだろうか。そこでライバルを倒しつつ優秀な成績を残せれば強さを証明できる。
 オペラオーは、周りにライバルがいないのがいたい。ドトウにも分けてあげたらよかった?


 てなところで、僕なりの最終評価を各項目5〜7点満点でまとめよう。
 20世紀の100名馬上位10位とオペラオーを考えてみる。
 評価のラインは以下のようにした(どれもややセンスを含む場合はある)。
(1)勝率8割以上を5点、7割〜を4点、6割〜を3点、5割〜を2点、5割未満を1点。
(2)クラシックで2冠以上で古馬でもGT勝ちまたはクラシック1冠で古馬GT2勝以上を5点、
   あとはそれに準じてセンス。
(3)GT勝利数(地方交流、牝馬限定戦を除く)。
(4)2400mのGT勝利2回を5点、1回あれば4点、ないけど2500以上で勝ってれば3点、2000勝ちで2点。
(5)、(6)はセンスで。

馬 名
(1)
(2)
(3)
(4)
(5)
(6)
合計
ナリタブライアン
A27
スペシャルウィーク
23
オグリキャップ
25
サイレンススズカ
20
トウカイテイオー
B26
シンボリルドルフ
@32
シンザン
B26
ハイセイコー
14
エアグルーヴ
14
エルコンドルパサー
24
テイエムオペラオー
24


 以上、僕のこれまでの史上最強馬の結論は、

 1位 シンボリルドルフ
 2位 ナリタブライアン
 3位 トウカイテイオー、シンザン

 となりました。
 テイオムオペラオーではルドルフを超えられなかったです。
 「ルドルフを超えろ」
 これが実現する日は来るのでしょうか?
 断然の32ポイントを弾き出したルドルフ。絶対皇帝が残した戦績は輝かしいものがあります。


 さてあなたの史上最強馬は、どの馬ですか?


 上記はディープ以前に書いたものです。その後の評価は最強横綱のコーナーをご覧ください。
私の評価の中では、ディープインパクトはシンボリルドルフに並びました。


 (初稿2002年頃、2007年12月24日最終更新)